日々、勉強。

社会見学レポート

幸福王子の感想

 

 

公演が無事に終わったので『ROCK READING 幸福王子』の感想を書きます

本髙くんも言ってたけど、今のご時世では誰も欠けることなく最後まで公演を続けられることがどれだけ大変で、どれだけありがたいことか身に染みているので無事にキャスト全員で大千秋楽を迎えられて本当によかった

 

 

 

まず朗読劇が決まったのがまだまだサマパラの余韻に浸っている8月17日

メールを見てからすぐにキャパを調べて「700!?狭くない!?」って驚いたのを覚えている

 

そして幸福王子のストーリーを読んで見覚えがあった

 

 

小さい頃家にあったな…

 

ていうか読書感想文書いたな

 

 

もうこれは観ないわけにはいかないじゃん?

後に出る「運命運命!運命頼む!」状態で申し込む

 

好きなアイドルグループ、どれも最高だと思っているのでいまだに彼らに対する適切なキャパはわからないけれど幸か不幸かコロナ禍ということもあり初日と東京楽を含めて数枚チケットを手に入れることが出来た

 

 

そしてあっという間に初日

2月以来の久しぶりの現場、そして「私的初日」はどの現場でもあるけど「本当の初日」に入ることが3度目ましてなので何が起こるかわからない緊張した雰囲気にすでに胸が高鳴る

会場に入ると舞台中央に冠をかぶり金のジャケットを着た王子のマネキンがいた

 

これが『幸福王子』か・・・

 

舞台上はバンドセット、キャストたちの机と椅子、無数に置かれた水、そして中央の『王子の像』というとてもシンプルなセットだった

 

勝手に舞台だ!演技だ!と思って盛り上がってたけど事前に届いたパンフレットを読んで「朗読劇」ということは再確認していた

実際に動きでのお芝居はほぼ無く基本は朗読、声のみの演技でそこに「ROCK READING」としての音や歌が合わさる感じだった

 

 

でも、想像以上だった

 

 

行く前の電車で読んだ原作を翻訳した本の帯にも「ささげつくす無償の愛を描いた名作」って書いてあった通り、自分の身を犠牲にして宝石や金を与え貧しい街の人々を救おうとした王子とそれを自分の命を顧みず手助けしたつばめが死後、神様から認められ一緒に天国に行き『永遠の幸せ』を手にするハッピーエンドだと思っていた

 

 

思っていたよ!!!

 

 

王子とつばめのおこないが正しかったかはわからないけど結果的に神様に認められて天国で暮らせるハッピーエンドだって!!!!!!

 

 

 

でも違った

 

 

 

 

朗読劇では冒頭部分で涙を知らず快楽しかない宮殿で暮らしていた王子が死んでから初めて宮殿の外の世界を目にすることになり、醜い人間同士の争いや貧しい人々の暮らしを知り、憤りや苛立ちを見せ「バカかお前らは!」と吐き捨てる

その後も全体的に「人間のエゴや社会の不公平さ」を感じさせる内容で”中間搾取”や”シングルマザー””児童虐待”など現代的な社会問題も呈していた

ゼロサムゲーム」という誰かの勝利の裏には必ず敗者が存在して、特に経済面では大きく成功する人のためにその何万倍もの人が貧しい暮らしを強いられるという社会の仕組みも大きなテーマだったと思う

 

 

そもそも原作のような儚げな王子の描写は一切なく、短気で身勝手な王子の『自分が宝石をあげて助けることが正しいと思う』という行動原理により、つばめも宝石をあげても一時しのぎにしかならないんじゃないの?と疑問をぶつけながらそれが『善いこと』だと言う王子のためにおつかいを続ける

 

一つ目の宝石は旦那が戦死しお針子仕事をしながら病気の子どもを抱えるシングルマザーに

二つ目の宝石は売れない作家に

三つ目の宝石はマッチを売らなければ父親に殴られてしまう少女に

体を覆う金箔は家がなく食べ物にも困る子どもたちに

 

結果的にエジプトに行くタイミングを失ったつばめは寒さで凍え死に、王子の鉛の心臓も割れる

 

そしてイエスマンを引き連れて得意げに威張り散らす市長が、装飾がなくなり美しくなくなった王子の像の代わりに自分の像を建てろ、という反吐が出るような提案をした後に救われるシーンだったはずの神様からの

「小さな鳥は天の楽園で永遠にうたい続け、王子は黄金の都で永遠に私に仕えることになるだろう」

という『永遠の楽園への招待』

 

神様の声を聴いたときにぞわぞわしたんだけど(詳しくはあとで書く)そこから十数秒の沈黙があり

 

溜めに溜めた王子の渾身の

「バカかお前らは!!!!!!」

 

この一言でラストシーンは完全にバッドエンドになった

 

ええええぇえ!?!?

王子とつばめは天国に行けました。めでたしめでたし

じゃないの!?とかなり驚いた

 

でも快楽しか知らずそれを幸せだと思っていた一度目の人生と、現実の醜い世界を見続けた五百年を考えると「天国での永遠」が幸せとは思えないし、王子はそんなこと望んでいなかったんだよね

 

「周りからは一見幸せそうに見えるが本人は全く幸せを感じていない」状況をバッドエンドという言葉で一括りにしていいのか迷ったけど、間違いなくバッドエンド

 

 

初回はだいぶ心臓がどきどきしたけど二回目の観劇時には「瞬き一つ見逃さない!」という強い意志を持って防振を構えたら十数秒の間に怒り、絶望、悔しそうに、哀しそうに、悲痛な表情を浮かべながら下唇をぎゅっと噛んで左目から涙を流す王子がいて・・・観ているこっちの心臓までぎゅうぎゅう締め付けられた

 

 

幼いときに読んだ心温まるお話のイメージとはまるで違う、あまりにも救われない結末に最後の全員での歌とカテコの挨拶がなければ呆然とした状態で会場を後にしていただろう

 

一つの舞台を観ることで今までの考え方が根本から覆されるという経験が初めてだったから本当に衝撃を受けた

 

 

スズカツさん、恐るべし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本髙くんの王子について

 

凄かった

もうこの一言に尽きる

 

役が決まったときに「王子なんて柄じゃない」なんて笑ってたのが噓のように王子としての威厳と風格と高圧さを身にまとっていた

ゼロサムの説明にあれだけ説得力を持たせられるのは頭の良い本髙くんだからだろうし、重厚感のある歌声も舞台映えしていた

何より歌のときに赤いライトで照らされるシルエットがめちゃくちゃかっこよかった

あの瞬間のステフォが欲しい

 

 

 

 

こんぴのつばめについて

 

かわいい

もうこんぴに言えることってこれだけなんだよ(そんなことはない)

 

最初のセリフ「キミを好きになってもいいかな?」の声と表情の柔らかさにつばめのキャラクターが表れてた

こんぴってこんな声も出せるんだってシンプルに驚いた

 

ちょっと不貞腐れたように言う「だけど目が覚めちゃった」「小さなはいらない」「教えない!」

無邪気に言う「寄生虫を食ってやったから」

全部かわいかった

 

眠くなるの歌はこんぴの伸びやかな歌声が堪能できた

本当に歌がうまいし聴いていて気持ちがいい

素敵なソロの歌をありがとうございました

 

最後の歌のときに向き合っていたり、カテコでサングラスをお借りして登場したり、キャストの人とも仲良くやってるんだなぁと微笑ましかった

 

 

 

 

キャスト、バンド、演出について

 

最初耳が慣れなくて聴こえなかった部分も回数を重ねることで聴こえるようになった

やっぱり生の音の迫力は素晴らしい

限られた空間の中で様々な楽器や道具を使ってある時は王子の涙を、ある時は暖かで雄大なエジプトの大地を、ある時は凍てつく冬の厳しい寒さを感じさせてくれた

 

そしてスポットライトや赤いライト、強烈な白いライトなど音だけじゃなく照明の光でも幸福王子の世界を盛り上げてくれていた

 

改めて『ROCK READING』という初めての演出の面白さを感じた

 

 

 

 

 

 

市長と神様の声について

 

つばめが死んでこんぴが舞台を離れてからは、完全に本髙くんの一人芝居で語り部、市長、議員、芸術大学の教授、鋳物工場の監督、神様、など幾人も声で表していた

 

先述の通りこの作品に出てくる市長はどうしようもない奴で、本髙くんが演じる声も「嫌なやつ」を体現したようなかなり悪意のある独特でクセのある声だった

その市長と最後に出てくる「神様」が同じ声だったのだ

 

シンプルに気持ちが悪かった。気色が悪いと言うべきか?

 

権力を振りかざし自分の地位と世間からの名声にしか興味がないような市長と、自分のいる天国にいることが、自分に仕えることが、「幸せ」だと思い込んでいる神が同じような存在であるという最大の皮肉を込めた演出だったのかなぁと勝手に解釈してたけど、いつかのカーテンコールの挨拶で本髙くんの方からも市長と神様の声が同じ意味を考えてくださいって言っていたのを知り、やっぱりそうだよね。大事な意味あるよねって一人で納得してた

 

ただ、王子が「結果より原理が大事」だと言って自分が思う正しさを貫いておこなった人助けもやってることは結局神様と同じで、本人たちが宝石をもらえることを望んでいたのか、一つの宝石で「幸せ」になれるのか、と考えるとこれも皮肉だなぁ

 

 

それも全部含めて最後の

バカかお前らは!!!

 に繋がったのだろうけど

 

私は「お前らの"ら"」には王子自身も入ってると思う

自分の身勝手で死なせてしまったつばめ、結局変わらない世の中、勝手に約束された"永遠"

ラストシーンで王冠を手に取り、何もなくなったただのマネキンを見つめる王子は等身大の自分と向き合い今までのおこないを振り返っているようだった

 

 

でも市長は自分の存在は民に認められていると勘違いしているだけだし、神様も意地悪で王子とつばめを呼んだのではなく天国で永遠に過ごせることは幸せだと思っていたのだし、王子も身勝手ながらこの世界を変えたい一心での行動だったわけで、『完全な悪人』はいないんだよな

 

 

皮肉・・・うん。皮肉な話だった

 

 

 

幸せとは

 

じゃあ幸せって何?(重い)

 

これも本髙くんがカーテンコールで問いかけてくれた

考えさせられることを問いかけたと思ったら結局全部食べ物の話に持っていくところがめちゃくちゃかわいいし、難しくゼロサム理論を語っていた王子とのギャップが凄かった

 

でも本髙くんには本髙くんの幸せがあって、こんぴにはこんぴの幸せがある

それが答えなのかな、とも思った

 

お金が十分になくても大切な人と幸せに暮らしている人はいるだろうし、

お金さえあれば幸せだと感じる人もいる

魚を食べているときに幸せを感じる人がいれば

歌をうたっているときに幸せを感じる人もいる

 

人の幸せは他人が押し付けるものじゃない(結論)

 

 

 

 

 

 

 

個人的に王子とつばめが言い争うところで

「独善的」「協調的」

「主観的」「宗教的」

「傲慢」「怠慢」

と真逆の言葉を使って二人の考え方や価値観の違いを見せつけたあとに

 

「「強情だな」」

 

とお互いに通じる性格が見えて場が収まるところが好きだった

 

 

 

 

細かいことを言い出したらまだまだあるし、できれば幸福王子を観た人と色々語りたい

 

 

おしまい